東京大学社会科学研究所附属社会調査・データアーカイブ研究センター

プレスリリース

2024年3月4日発表

第17回調査(2023年1~3月実施)と第5回リフレッシュサンプル調査(2023年1~3月実施)の集計結果について、プレスリリースを行いました。

パネル調査からみる幸福、タイムプレッシャー、希望の結婚・出産年齢、希望の介護

発表のポイント
  • 2007年より16年間にわたりパネル調査(同一の人々への追跡調査)を行ってきた。今回は、16年分の最新の調査データを用いて、コロナ禍やライフステージにおけるワクチン接種、スキル形成、意識、希望する介護について分析をした。
  • 最新の調査を含むデータを分析したところ、(1)幸福度と関連する最も重要な要因は暮らし向きであること、(2)「あなたは普段どのくらい急いでいると感じますか」という質問への回答をタイムプレッシャーの指標として、この指標が月あたり労働時間、平日の家事時間、1日あたりの睡眠時間の長さと関連していること、(3)希望する結婚年齢の実現要因にはジェンダー差があること、(4)希望する介護は性別や年齢によって異なること等が明らかとなった。
  • 分析結果から、コロナ禍やライフステージにおける人々の生活や意識の実態および変化が確認された。本調査のさらなる継続により、様々なライフステージにおける意識や行動を精確に把握することが可能になると期待される。
発表内容

本研究グループは、2007年より「働き方とライフスタイルの変化に関する全国調査」を毎年実施している。本調査は、急激な少子化・高齢化や経済変動が人々の生活に与える影響を解明するため、日本で生活する若年・壮年層の働き方、結婚・出産といった家族形成、ライフスタイルや意識・態度などがどのように変化しているのかを探索することを目的としている。同一の人々に繰り返し尋ね続ける「パネル調査」という手法を用いている点に特色があり、同じ個人を追跡することにより、個人の行動や意識の変化を跡付けることができる。

今回は、最新の2023年調査を含む17年分のデータを用いて、(1)幸福をめぐる人々の考え方とその関連要因、(2)誰が時間に追われていると感じやすいのか、(3)何歳までに結婚したいか、子どもを持ちたいか、(4)希望する介護、という4つのトピックを分析した。主な分析結果は以下の通りである。

  1. 人々の感じる幸せ感(幸福度)と、将来のより大きな幸せのために現在の幸せを犠牲にすることができるのかという質問の2つについて、その回答分布と関連要因を検討した。幸福度と関連する最も重要な要因は、暮らし向きである。経済的に豊かであるほど、幸せであると感じる度合いは高くなる。暮らし向きに続くのが、主観的健康度である。自身の健康状態が良いほど、幸せであると感じやすい。社会的繋がりは、3番目に来る要因である。何か問題が起きたときに相談したり頼んだりできる人が存在することは、人々の幸福度を大きく上昇させる傾向がある。社会的な支援・手助けを受けられるネットワークを確保することは、自身の幸福度を高めることに繋がると言える。つまり、経済的豊かさ、健康、社会的支援の3つが、人々の幸福度を占う3大要素と言えそうである。現在の幸せを犠牲にすることができるのかについては、幸福度の結果のように、とびぬけた要因があるわけではないが、大卒学歴、専門管理職、暮らし向き、社会的繋がりが、相対的にウエイトの大きい要素であることがわかる。これらの結果からは、社会経済的資源をすでに持っている人が、現在の幸せの一部を犠牲にすることに対してより寛容であると読み解くことができる。
  2. 「あなたは普段どのくらい急いでいると感じますか」という質問への回答をタイムプレッシャーの指標として、月あたり労働時間、平日の家事時間、1日あたりの睡眠時間の長さとどのように関連しているのかを検証した。男性回答者の13%、女性回答者の24%がいつも急いでいると回答した。男女ともに労働時間が長いほど急いでいると感じやすい。月120時間超から200時間以下の場合と比べ、月200時間超の場合には男性で1.7倍、女性で2倍急いでいると感じやすい。家事時間については、男性についてはその長さとタイムプレッシャーのあいだに明確な関連がみられなかった。一方、女性については、30分未満の場合と比べて4時間以上である場合、4倍強く急いでいると感じやすいという結果であった。睡眠時間については男女ともに長さとタイムプレッシャーのあいだには関連がみられないものの、起床時刻か就寝時刻が特に決まっていない場合、女性についてはタイムプレッシャーを感じくいという関連がみられた。以上の結果は、現代社会において仕事と家庭の両方で大きな役割を期待される女性が時間の貧困に陥るリスクが大きいことを示唆しているが、男性についても今後家事参加が進むことで同様のリスクが高まるかもしれない。
  3. 若年・壮年層の「何歳までに結婚したいか」「何歳までに子どもを持ちたいか」の希望について、(1)2007年と2023年の2時点でどのような変化がみられるか、(2)2007年時点で上記の質問に回答した人々のうち、その後、希望が実現した人はどれくらいいるのか、また、どのような人が希望を実現しているのかを検討した。第1の問いについて、2007年時点と2023年時点の若年・壮年層を比較したところ、「何歳までに結婚したいか」「何歳までに子どもを持ちたいか」の回答傾向にほとんど変化はみられなかった。実際にこれらのライフイベントを経験した人々の平均年齢はより遅くなっているのに対し、「何歳までに経験したいか」の希望には変化がみられないことから、理想と現実に少なからずギャップが生じていることが示された。第2の問いについて、2007年時点の「何歳までに結婚したいか」の希望が実現した人の割合は、男性で約3割、女性で約4割であった。「何歳までに子どもを持ちたいか」の希望が実現した人の割合は、男女ともに約15%であった。希望の実現については、子どもを持つ年齢の希望については、明確な要因は見出せなかった。結婚年齢の希望については、男性では経済的な余裕があること、女性では年齢が若いこと、希望の年齢までの残り年数が長いことが実現の要因となっており、ジェンダーによる差異が明らかになった。
  4. 2023年時点で25〜57歳の男女を対象とする調査を用いて、介護が必要になった場合の希望する介護場所と介護者について分析を行った。希望する介護の場所については、全体では約53%が「介護施設や老人ホーム」での介護を、約36%が「自宅」での介護を望んでいることが分かった。男女別に集計すると、男性では「自宅」と回答する人の割合が女性よりも高く、女性では「介護施設や老人ホーム」と回答する人の割合が男性よりも高い。また年齢別に集計すると、年齢が高いほど「自宅」での介護を希望する割合が高いことが分かった。希望する介護者については、全体では約70%が「介護職等の専門家」に介護を、約20%が「配偶者」に介護を、約6%が「子ども」に介護をして欲しいと回答している。男女別に集計すると、男性では「配偶者」と回答する人の割合が高く、女性では「介護職等の専門家」と回答する人の割合が高い。また年齢別に集計すると、20代と50代は「配偶者」と回答する人の割合が30代と40代よりも高い。

さらに詳しい内容は、詳細資料をご覧下さい。PDF版:1.1MB)

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