2018年3月30日発表
第11回調査(2017年3~5月実施)の集計結果について、プレスリリースを行いました。
パネル調査から見る仕事、余暇、家族
- 発表のポイント
- 2017年に行われた最新の調査データを分析した結果、長時間労働は人々のメンタルヘルスを悪化させること、働き方についての希望を実現できなかった人がキャリアのなかで転職や離職を繰り返していること、仕事からの遅めの帰宅が友人・家族との交際の頻度を減少させること、豊かな家庭で育った人の方が親からの支援を受け取りやすいことが明らかとなった。
- 10年間にわたる同一の人々への追跡調査により、上記の成果にみられるようなライフステージや生活状況の変化を具体的に明らかにできた。
- 仕事・職場環境やキャリアに関する諸問題には今だ改善の余地のあることが、分析結果から示唆される。また、調査対象者のライフステージの変化にともない子の養育や親への支援などの新たな課題も生じていることも明らかになっている。この調査のさらなる継続によって、若年期の状況が壮年期にかけてどのように影響するのかをより精確に把握することができるようになる。
- 発表概要
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東京大学社会科学研究所の石田浩教授らの研究グループは、2007年から毎年実施している「働き方とライフスタイルの変化に関する全国調査」の2017年調査結果をもとに、
- 職場・仕事環境
- 働き方についての希望
- 遅めの帰宅時間がもたらす影響
- 世代間支援
という4つのトピックを分析した。知見は次の通りである。
- 2007年から2017年にかけて、長時間労働をする人の割合は減っていた。そうしたなかでも、長時間労働はメンタルヘルスに対して負の影響を与えていた。働き方の質のほうが、仕事に関する人々の意識とどのように関連しているかを見ると、職場環境や仕事環境などの改善は、メンタルヘルス、仕事満足度、仕事継続意志にプラスの影響を持っていた。
- 正社員として働きたいと2007年の調査で答えていた人のうち、男性102人と女性237人が2017年調査の時点では、正社員以外の働き方をしていた。正社員としての就業希望を実現した人と実現しなかった人では中長期的なキャリアにも特徴的な違いがあり、後者のグループにおいて就業歴のなかで仕事の変化が起こる確率が高いことや、職場でOJTを受ける機会が不足していることが確認された。
- 働く人々が帰宅する時刻は、10年間で男女とも平均して数十分程度早くなっていた。帰宅時刻の変化が、社会ネットワーク上の活動の変化に及ぼす影響を調べると、男性は17-19時台の帰宅を基準とし、それより遅い時間帯に帰宅するようになると、友人や家族と関わる頻度が減少していた。女性の場合は、友人・家族との関わりの頻度は、自分自身ではなく配偶者の帰宅時刻から有意な影響を受けていた。
- 1年間に両親・配偶者の両親から支援を受けたり、両親・義理の両親に対して行った支援について調べた結果、女性の方が男性よりも支援を受けやすく、支援を行いやすいことが分かった。年齢別の分析では、30歳代の若年グループで親から受ける支援の比率が高くなっていた。出身家庭の豊かさや子ども世代の学歴は親から支援を受ける確率のみと関連を示し、親への支援とは関連をもっていなかった。
2000年代後半から現在までの、個人の行動や意識の変化を検証している研究は少ない。また、同一の人々に繰り返し尋ね続ける「パネル調査」という手法を採用していることで、変化を適切に捉えることができ、他の調査では明らかにすることができない信頼性の高い調査結果を提供している。急激な少子化・高齢化や経済変動が人々の生活に与える影響について関心が高まる中で、実証研究に基づく本研究の知見は、今後の政策議論を深める素材を提供しうるものと期待される。
さらに詳しい内容は、詳細資料をご覧下さい。(PDF版:898KB)